妄想Case5:ガラクタ生前葬~夫から相続したガラクタ骨董品をあらたな芸術作品に生まれ変わらせたい!

依頼人・篠田房代氏からのリクエスト

(今回の依頼人プロフィール)

氏名:篠田房代
年齢:88歳
住所:茨城県在住
家族構成:長男(60歳)、次男(57歳)、長女(55歳)、孫6人、曾孫1人

8年前に亡くなった主人は、子煩悩な、いいお父さんでした。

子どもが小さいころは、どんなに仕事が忙しくても家族との時間を大切にしてくれたし、孫たちや曾孫が生まれたときは、本当に幸せそうでした。そういう意味で主人は、理想的な家庭人だったんです。ただし、骨董趣味という一点がなければ…という条件つきでね。

あまり多くの遺産を残さなかったということについて、文句を言うつもりは微塵もありません。主人との生活は、総じて幸せでした。

ただ、モノの値打ちもわからないくせに、怪しい業者から薦められた骨董を次々と買う癖には、生前から辟易していたんです。深刻な夫婦ゲンカになったことも、しばしばありました。

ところが主人は「あの世に金は持っていけない」が口癖で、古伊万里だとかいうニセモノの陶磁器をずいぶんと集めていました。それらの骨董品がニセモノとわかったのは、相続をしたあとで、信頼できる鑑定士の方に品物の値打ちを鑑定してもらったからです。

その後、何人の方々にも鑑定していただいたので間違いありません。そういうことを生前に知っていれば相続放棄でもすればよかったんですが、なんやかんやでバタバタしているうちに相続放棄の締めきり期間の3ヵ月が過ぎて、手続きできなくなっていたんです。

ですから今回、子どもたちが生前葬を開いてくれるというので、主人の負の遺産をサッパリ処分する絶好の機会だと思っているんです。

そうして気持ちに区切りをつけることで、主人との思い出を前向きにふり返ることができるようにしたい、そんなことを考えているんだけれど、どうかしら?

そもそも、生前葬とは

生前葬ってなに?

かつては、「お世話になった人たちにお別れを言うため、本人が生きている間におこなうプレ葬儀」の総称でした。現在は、元気なうちに「人生に区切りをつけるお祝いの儀式」としておこなうケースが増えています。意味合いは、誕生日会や長寿のお祝い(喜寿や米寿など)と似ています。宗派・宗旨に関わらず自由なスタイルで開催できる点が魅力です。

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生前葬をするメリットは?

生前葬は、これまでの人生を振り返ることで、負の感情や記憶をリセットし、それからの人生をより生き生きとしたものに変えるきっかけになります。自分が主役になって、普段聞けない感謝の言葉や褒め言葉・お祝いのメッセージをもらうことで、自己肯定感を高めることができたと感じられた方もいらっしゃいます。

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基本プラン─相続したガラクタ骨董品をぶっ壊しルームで破壊

生前葬コーディネイターの余生充実郎よせいじゅうじつろうです。

まずは篠田様のご希望(潜在意識下のご希望も含め)を把握、検討した上で、基本プランから紹介させていただきます。

プラン要件
  • 相続したガラクタを処分してすっきりしたい
  • 家族と楽しい会食をしたい
  • これからの人生を充実して暮らすきっかけにしたい

篠田様のおっしゃる通り、相続放棄には「相続開始を知った日から数えて3ヵ月」という期限がありますので、値打ちのない骨董品も相続しなければなりません。「期限を知らなかった」と主張しても認められないのです。

ただ、負の遺産とはいえ借金などではないのですから、安心してください。ここはひとつ、相続した品々を有効に使って「ガラクタ生前葬」を盛り上げる小道具にすることにしましょう。

基本プランの会場は、東京都豊島区東池袋にある「REEAST ROOM(リーストルーム)池袋店」です。

この店舗内に2部屋ある「BREAK ROOM(ブレイクルーム)」とはその名の通り、物を思いきりぶっ壊すことができる空間・サービスなのです。

2008年、アメリカの女性実業家がストレス発散を目的としたエンターテインメント・サービスとして考案。その後、カナダ、オーストラリア、シンガポールなど世界各国で約30店舗以上が展開する大人気サービスとなりました。

そして2019年、リーストルームが日本初上陸としてオープンさせたのでございます。

利用者は、怪我が発生しないようにヘルメット、つなぎ、手袋、安全靴などの防具を身につけ、お皿や瓶、電子レンジなどの家電を安全に、思うように破壊することができます。

上の動画は、弊社の調査員を派遣してロケハンをさせたときの様子です。ここ最近の過重労働からストレスがたまりきっている調査員たちが、大暴れしています。

室内にはバットやハンマー、バールといったさまざまな武器が設置されていて、どんなものでも破壊することができます。

普段、破壊する物はお店が用意していますが、追加料金を払えば持ち込みも可能というのが大事なポイントです。

あらためて、「ブレイクルーム」のシステムを紹介します。入室できるのは5名までで、以下のような料金体系になっています。

持ち込みの追加料金は1㎏につき250円で、篠田様が旦那様から相続された骨董品は全部で25㎏になりますので、6250円になります。

ただ、この追加料金は廃棄処理の手数料になります。今回、ブレイクルームで破壊した骨董品のかけらはすべて持ち帰りますので免除になります。

今回のケースでは、篠田様とお子様3名の計4名になりますので、基本プランの料金は以下のようになります。

「基本プラン」予算お見積り

■メガスペシャルコース(20分)1万1190円×4名様
計…4万4760円

──以上、基本プランのお見積もりでした。続いては、オプションAの提案に参りましょう。

オプションA─今注目の「廃材アート」でガラクタ骨董品をあらたな芸術作品に蘇らせる

「オプションA」予算お見積り

さて、破壊のあとは再生です。「リーストルーム」でぶっ壊したガラクタ骨董品を、あらたな芸術作品に蘇らせるのです。

最近、廃材アートという表現形式が現代アートのジャンルのひとつとして市民権を獲得しているのを、ご存知でしょうか?

本来は破棄するはずの素材を使って、新たな作品を生み出すというこの手法、近年のSDGsといった持続可能な社会をつくるためのスローガンの流れに乗って、注目が集まっているのです。

今回、ガラクタ骨董品を材にしたアート作品の制作を請け負ってくれるのは、群馬県嬬恋村在住の廃材アーティスト、Kouya(高橋耕也)さんです。

工業大学卒業後、航空整備士やアンカー工、カメラマンなど多数の職に就き、数年間アウトドア雑誌やDIY雑誌の連載を機に造形家になった方です。

例えば、下の動画は東海地区最大級のものづくりイベント「クリエーターズマーケット」で優秀賞を獲得した廃材アートです。

こうした作品を累計5万点以上も作り続けているKouyaさんの「工房ものずきん」では、さまざまな人からの依頼を受けて制作した作品も多いといいます。

陶磁器のカケラはもちろんのこと、金属、プラスチック、樹脂など、あらゆる廃材がKouyaさんのインスピレーションによって新たなアート作品として蘇るのです。

作品制作の依頼は、Kouyaさんの奥様であり、彼と二人三脚で工房を運営する高橋二葉さんとの打ち合わせから始まります。

作品制作の目的や希望、予算などをヒアリングした後、kouyaさんが描いた数点のデザイン画を提示し、お互いがイメージを近づけていきながら予算に応じたお見積もりを提示するという流れになります。

ちなみにKouyaさんは、作家活動のかたわら店舗などの看板やリノベーション、エクステリアの受注も請け負っていますが、こちらはそのやりとりの具体例になります。

高橋二葉さんによると、亡くなった方の遺品による作品制作の依頼を受けたことがこれまでに何度かあるそうです。「その場合、どうしても、残されたご家族からは深い思いが感じ取れ、完成するまでも繊細なやりとりが続いたことが思い出されます」とのことでした。

今回は、100万円の予算で作品を依頼することにしましょう。

【オプションA】予算お見積り
■Kouyaさんへの作品依頼料
計…100万円

──以上、オプションAのお見積もりでした。続いて、オプションBの提案に移ります。

オプションB─一流の職人制作のうつわで廃材アート鑑賞会&食事会

実は、このオプションBこそが今回の「ガラクタ生前葬」のクライマックスです。つまり、Kouyaさんによって蘇った作品の鑑賞会を開催するのです。そして同時に、現代の一流の職人が制作した陶磁器のうつわで食事会を開きましょう。

もちろん、篠田様ご自慢の手作り料理を召しあがっていただくこともできますし、出張料理人を呼んでご希望の料理を作ってもらうこともできます(その際の料理人の出張費や手数料は別途かかります)。

そのクライマックスにふさわしいうつわを提供してくれるのは、1936(昭和11)年創業の「宮内庁御用達」店、陶香堂です。

初代店主吉岡澄雄氏の「誠心誠意良いものを」という哲学を代々守り抜き、陶磁器を中心として日本全国の産地・窯元から選りすぐりのうつわだけを提供しているお店です。

宮内庁御用達とは1891(明治24)年に宮内省(現宮内庁)により制度化され、5年以上宮内省に納入を続けている業者であるなど、厳正な審査・選定ののち、正式に納入を認可された業者のみに与えられた呼称です。

陶香堂は1949(昭和24)年に御用達を拝命し、以降、宮中や各官庁にうつわを納入しています。

御用制度は戦後の1954(昭和29)年に廃止になりましたが、陶香堂は1961(昭和36)年の吹上御所完成時の所内の食器を納入したほか、1990(平成2)年には即位の礼の「饗宴の儀」にて国内外の来賓に向けた食器を2万点以上納めるなど、現在までに納入したうつわは3万点以上にのぼります。

では、その素晴らしいうつわを見せていただくことにしましょう。

織部市松八寸正角箱皿 清水焼 1万6500円

山海の幸を合わせた肴の献立、”八寸”。おいしいものを少しずつ盛り付けるお料理の演出に最適な箱型皿です。

深緑の織部釉と渋みの伊羅保釉が格子市松に配置されています。切立状に真っすぐに持ち上がった縁、シャープなフォルム、四方の高台と、気品溢れる清水焼のうつわです。

平型姫碗 波佐見焼 1870円

薄く、軽い小ぶりな姫碗サイズのご飯茶碗です。小さなお子様にはもちろん、大人の女性の方がお使いになるにも、とても上品で手の収まりが良い大きさになっています。

とても軽くて薄いですが、高温で焼き上げたしっかりとした丈夫な磁器のうつわです。

銀彩六角片口酒器揃い 有田焼 1万4850円

冷酒を美味しくいただく酒器、有田焼の片口注器セットです。シルバー銀彩を基にシャープでスタイリッシュな雰囲気にできています。

キレの良い注ぎ口。片口、ぐい呑みともに軽くて持ちやすい六角形状の仕上げ。1合サイズの180mlの容量で、より上質に冷酒を楽しめる酒器です。

以上は陶香堂のオンラインストアに出品されているうつわのごく一部ですが、驚いたことに無料でレンタルすることが可能なのです。

オンラインでの販売ではうつわを手にとって選ぶことができません。そのことに対して「日本は世界的に見ても珍しい、うつわを手に取る食文化がある。その文化を大事にしたい」との陶香堂の熱い思いから生まれた、粋なはからいなのです。

また、陶香堂では誕生日などのお祝い品や出産祝い、冠婚葬祭の引き出物などのうつわのオーダーメイドも請け負っています。

80年間という長い時間をかけて培ってきた信頼のおける産地、窯元の職人とともに、予算と要望に応じた仕入れや商品開発をしてくれるのです。ご希望の方には名入れをすることもできます。

ちなみにこれは、有田焼職人の大胆な筆使いで名入れをした、世界に二つとないオリジナルカップです。

そこで、ガラクタ生前葬の参列者にも、引き出物を差し上げることを強くお薦めします。

生前葬でも、引き出物をお贈りすることは絶大な効果をもたらします。なぜなら生前葬は、その後の人生を楽しく過ごすために行う儀式であり、そのときをともに過ごした参列者の方々と同じうつわを共有することで、その思い出がいつまでも維持されるからです。

奮発して、30万円の予算で「ガラクタ生前葬」の参列者20名分のうつわをオーダーメイドすることにしましょう。

【オプションB】予算お見積り
■陶香堂へのオーダーメイド依頼
計…30万円

「ガラクタ生前葬」お見積りまとめ

基本プラン
メガスペシャルコース(20分)1万1190円×4名様
4万4760円

オプションA
Kouyaさんへの作品依頼料
100万円

オプションB
陶香堂へのオーダーメイド依頼
30万円

今回の妄想♡生前葬プランのお見積り総額は……
基本プラン + オプションA + オプションBで
=合計134万4760円!

依頼人からのコメント
依頼人・篠田房代
依頼人・篠田房代

実のことを言うと、子どもたちから「お母さんの生前葬を開きたい」と持ちかけられたときは、あまり気が進まなかったんです。でも、余生さんに亡くなった夫への不平を打ちあけているうち、それが素敵な生前葬のプランにつながって……。もし、この「ガラクタ生前葬」を実現できれば、夫の欠点をサッパリ忘れて、愛情だけの思い出を抱えて残りの人生を過ごせそうな気がしています。前向きに検討させていただきます。

専門家からのコメント
畑山 花朱美<br>(株式会社ハウスボートクラブ)
畑山 花朱美
(株式会社ハウスボートクラブ)

ご主人が集めた趣味品を奥様が生まれ変わらせる、なんて素敵な企画でしょう!奥様にとって新たな一歩でもあり、ご主人との想い出を蘇らせる時間でもある、まさに生前葬の醍醐味と言えるプランだと思います。

余生充実郎のひとりごと──「お見積り」を終えて

その日、余生充実郎は2リットルのお湯に10%の塩を入れ、長年お気に入りのブロンズパスタを茹でながら、旬のブロッコリーの下ごしらえをしていた。

料理をしているとき、余生の頭脳はもっとも活発になる。これまで数々の賞賛を浴びた生前葬プランの多くは、このときに生まれている。

彼は自問する。

「本当の価値というものは、お金で計れるものではない。なぁ、余生よ。そうじゃないか? 値打ちのないガラクタ骨董品だって、料理のしようで一生の思い出に残るものに変えられる可能性を秘めているんだ。そう、思い出こそ、お金では買えない、最大の価値なんじゃないのか」

そんなことを考えながら、余生は器用に包丁を駆使して「ブロッコリーのクリームパスタ、ペコリーノ・ロマーノ風味」の仕上げの作業へと没頭していった─。