妄想Case3:オーケストラ生前葬~オーケストラ派遣サービスを利用してベートーヴェンのピアノ協奏曲を熱奏!

依頼人・天野一美氏からのリクエスト

(今回の依頼人プロフィール)

氏名:天野一美
年齢:79歳
住所:東京都在住
家族構成:夫(76歳)

私は今までの人生において、自分のやりたいことは大抵やってきたつもりだけど、ひとつだけ若いころにあきらめた夢があるの。それは、クラシックのミュージシャンになること。幼いころからピアノを習わせてもらって、小学生のころにコンクールで入賞したこともあるの。

当然、プロの道に進みたいという気持ちはあったけど、父が厳しい人でね、「女が音楽で食っていくなんてあり得ない」と大反対されて…。

だから、将来のことを考えたとき、音楽の道に進むことはだいぶ早い時期にあきらめて、経営者になる道に進むことにエネルギーを全フリしたわけ。

でも、ビジネスの世界で働きながら趣味としてピアノはずっと弾き続けていたの。それは、人生に対する私なりの抵抗だったのかもしれないわね。

最近では、事業が落ちついてヒマができたせいか、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番の第一楽章から第三楽章まで、マスターしたわ。

だからもし、私の生前葬を開くなら、オーケストラを呼んで私のピアノを披露してみたいわ。多少のお金はかかっても、実現すれば一生の思い出になると思う。あと、アンコール用に私の会社の社歌もオーケストラ用に編曲してもらって演奏したいわ。

あなた、最初に出会ったとき、かなえられない夢はないと偉そうにおっしゃっていたけど、本当にそうなの?

そもそも、生前葬とは

生前葬ってなに?

かつては、「お世話になった人たちにお別れを言うため、本人が生きている間におこなうプレ葬儀」の総称でした。現在は、元気なうちに「人生に区切りをつけるお祝いの儀式」としておこなうケースが増えています。意味合いは、誕生日会や長寿のお祝い(喜寿や米寿など)と似ています。宗派・宗旨に関わらず自由なスタイルで開催できる点が魅力です。

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生前葬をするメリットは?

生前葬は、これまでの人生を振り返ることで、負の感情や記憶をリセットし、それからの人生をより生き生きとしたものに変えるきっかけになります。自分が主役になって、普段聞けない感謝の言葉や褒め言葉・お祝いのメッセージをもらうことで、自己肯定感を高めることができたと感じられた方もいらっしゃいます。

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基本プラン─オーケストラ派遣サービスを利用して、クラシック演奏会を開催

生前葬コーディネイターの余生充実郎よせいじゅうじつろうです。

まずは天野様のご希望(潜在意識下のご希望も含め)を把握、検討した上で、基本プランから紹介させていただきます。

プラン要件
  • オーケストラと一緒に自分のピアノを披露したい
  • 自社の社歌をアンコール用にオーケストラ編曲して欲しい

オーケストラは、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器の4群による大規模編成の楽団ですから、それらをまるごと手配するなど不可能なのではないか…。そう考える方は多いでしょう。

しかし、不可能ではないのです。

その難事業を引き受けてくれるのは、クラシック音楽を中心に、尺八や箏などの和楽器、雅楽、ジャズ、民族音楽など、多数の演奏家が在籍しているクライス音楽事務所です。

クライス音楽事務所に在籍している「クライス・シンフォニー管弦楽団」は、優秀な若手演奏家と在京オーケストラ元団員を融合したオーケストラ。これまで、学校公演やテレビ番組制作協力、CM撮影協力などを中心に活動しています。

クラシック音楽のファンなら、日本テレビのドラマ『リバーサルオーケストラ』をご覧になった方も多いでしょう。実は、劇中に登場する「高階フィル」は、この楽団の演奏家たちを中心に構成されました。

そのほか、TBSテレビ『マツコの知らない世界』、フジテレビ『奇跡体験!アンビリバボー』などの番組制作協力、IntelやガリバーのCM撮影、ポケるんTVなどのYouTube番組撮影などにもたずさわっています。

また、2023年4月には広島よしもと所属の歌ネタお笑いコンビ「メンバー」の単独ライブをオーケストラの生演奏で行い、話題になりました。

ちなみに、オーケストラの規模は、演奏する楽曲が作曲された年代によって決まります。

例えば、グスタフ・マーラーの『交響曲8番』は、1000人以上の演奏家を必要とするので「千人の交響曲」と呼ばれています。その演奏には途方もない費用を必要としますので、1910年の初演以来、そのチケットが高額になることで知られています。

ですが、安心してください。マーラーより約100年前の19世紀初頭に活躍したベートーヴェンの時代のオーケストラは、マーラーと比べるとだいぶリーズナブルです。

ベートーヴェンは、1808年に初演された『交響曲5番<運命>』において、史上初となるピッコロ、コントラファゴット、トロンボーンを導入したオーケストラの革新者ですが、『ピアノ協奏曲5番<皇帝>』(1811初演)は、それよりもオーソドックスな編成なのです。

演奏者の人数は、木管楽器のフルートとオーボエ、クラリネット、ファゴットがそれぞれ2管で計8名、金管楽器のホルンとトランペットがそれぞれ2管で4名です(余談ですが、これを2管編成と呼びます)。

弦楽器は、第一ヴァイオリン8名、第二ヴァイオリン6名、ヴィオラ4名、チェロ4人、コントラバス2名となっています(これも余談ですが、弦楽器の演奏者の人数は、最高音を担当する第一ヴァイオリンから音が低くなるにつれ2名ずつ減らしていくのが原則です。さらに余談を重ねるならば、2名ずつ減らすのは1つの譜面台を2名で共有しているためで、その単位を1プルトと呼びます)。

さて、これに打楽器(ティンパニ)や指揮者を入れた、およそ40名が『ピアノ協奏曲5番<皇帝>』を演奏するための基本編成となります。

というわけで、以下が基本プランのお見積もりです。

「基本プラン」予算お見積り

■オーケストラ派遣料 300万円、会場費 150万円
計…450万円

クラシック専用ホールの会場費は、平日の夜の部の費用でお見積もりしています。本番の会場費に、前日の舞台仕込みやリハーサルを行うための会場費(本番の約50%)を足した予算です。

サントリーホールのような有名オーケストラが本拠地にしているところを借りるには足りないけれど、自治体が運営している文化会館などには充分な予算です。

──以上、基本プランのお見積もりでした。続いては、オプションAの提案に参りましょう。

オプションA──既存曲の社歌をオーケストラ用に編曲してアンコールで演奏

「オプションA」予算お見積り

天野様の続いてのオーダーは、「社歌をアンコール用にオーケストラ編曲して演奏したい」というものでしたね。これについても、クライス音楽事務所さんのお力を借りることにしましょう。

基本プランの説明で、同事務所にはクラシック音楽はもちろん、尺八や箏などの和楽器、雅楽、ジャズ、民族音楽など、多彩で多数の演奏家が在籍していると申し上げましたね。

実はそのなかには、一流の教育機関で学んだ作曲家、編曲家も在籍していらっしゃるのです。

例えば西田直嗣なおつぎ先生は、東京藝術大学作曲科を首席で卒業し同大学大学院修了した方です。

これまで作曲を河田文忠、北村昭、松下功といった大家に師事し、現在は群馬大学共同教育学部教授をつとめ、日本歌曲研究会「歌雲界」を主宰しています。

第1回東京室内楽作曲コンクール第一位、第61回、65回日本音楽コンクール作曲部門第3位入賞などと受賞歴も華々しく、また、第17回日本歌曲振興会日本歌曲作曲コンクールでは2作品がそれぞれ最優秀賞と優秀賞を受賞した実績もございます。

西田先生に編曲を依頼すれば、天野様の会社の社歌が、豪華なオーケストレーションで生まれ変わること、間違いございません。

というわけで、オプションAのお見積もりです。

【オプションA】予算お見積り
■西田直嗣先生への編曲依頼費
計…30万円

編曲料は、演奏時間の長さによって決められます。こちらは、演奏時間が10分だった場合のお見積もり額です。楽器編成や納期などにより、これ以上の金額になることもあります。

──以上、オプションAのお見積もりでした。続いて、オプションBの提案に移ります。

オプションB────音楽家向けドレス専門店でゴージャス&個性的なドレスをお仕立て

ところで、本葬と生前葬のいちばんの違いは何でしょうか?そう、本葬は一回限りの儀式であるのに比べて、生前葬は何度でも開くことができるというのが大きな特徴です。しかも、ご自分が望む通りの企画を立てることができるという、二重の醍醐味があるのです。

ですから、天野様のレパートリーに新しい曲が加わるたび、オーケストラ生前葬を何度も開催するというのは素敵な趣向なのではないでしょうか。そこで、曲に合わせて雰囲気の異なるカラードレスをお仕立てすることを提案させていただきます。

協力をあおぐのは、音楽家のためのカラードレスを扱っている専門店、京王線笹塚駅から徒歩6分のところに実店舗を構える「アナベル」さんです。

アナベルのスタッフさんによると、ピアニストにせよ、ヴァイオリニストにせよ、女性の音楽家のカラードレスの特徴は、演奏の肝である手の動きを邪魔しないことなのだとか。

そして、ドレス選びの基準は、カラーとデザイン、その2方面で検討するのが良いそうです。

例えば、下のふたつのドレスを見てみましょう。

左はマリンブルー(3万3000円)、右はワインレッドのカラードレス(3万8500円)で、このふたつの色は、演奏会ドレスの定番ネイビーカラーなのです。

というのも、演奏会では、曲によってふさわしい色と、そうでない色があるといいます。

例えば、バッハのミサ曲のような厳粛な曲を演奏する場合、ピンクやイエローのような明るい色は似つかわしくないし、そうかといってブラックやシルバーといった暗いカラーでは地味過ぎる。そんなふうに迷ったとき、マリンブルーとワインレッドの2色は、ほどよい落ち着きがあり、なおかつ見た目の華やかさを演出できるというわけです。

続いて、デザインについて見てみましょう。

上のドレスはどちらも「シンプルAラインドレス」という型のデザインです。シルエットがアルファベットのAのように見えるのが特徴で、その大人っぽくタイトなデザインは、ピアノ伴奏やオーケストラ、サロンコンサート、パーティーなど幅広いシーンで着用されることの多いシルエットです。

ほかには、こんなデザインのドレスもあります。

胸元のスカラップレース装飾に細やかなデザインのビーズ刺繍を施したイエローゴールドのボリュームチュールドレスです(4万9500円)。

「ボリュームAラインドレス」といって、高めのウエスト位置と、直線的に広がるスカートがアルファベットのAのシルエットをさらに大きく見せているのが特徴で、体形に関係なくどなたでも着こなせるスタンダードなデザインです。

さらに豪華なデザインがこちらのドレスです。

ゴールドグリッターとブラックフロッキーの薔薇模様が豪華さを際立たせるゴージャスドレス(4万5650円)です。

このデザインは、「プリンセスラインドレス」といって、キュッと絞られたウエストの下から、お椀をひっくり返したようなふわっと大きく広がるスカートが特徴で、その名の通り、まるでおとぎ話のお姫様のような可愛らしく豪華なシルエットが魅力です。

いかがでしょう? 異なるカラー、異なるデザインで3着ほど仕立てておけば、どんな曲を演奏する際にも対応が可能です。

というわけで、オプションBのお見積もりです。

【オプションB】予算お見積り
■シンプルAラインドレス、ボリュームAラインドレス、プリンセスラインドレス、3着のお仕立て予算 15万円
■裾直し料 4400円×3着

計…16万3200円

アナベルでドレスを購入する際には、お客さまの身長に合わせて裾直しをします。その際の基本料金は1着につき4400円になります。

さて、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲5番<皇帝>』は、『交響曲5番<運命>』以降の「傑作の森」と評される時期に生み出された作品のひとつです。

ただ、持病の難聴がこのころから進行し、それまで自身の演奏での初演をつとめてきたことを断念して、他の奏者に演奏をまかせざるを得ませんでした。

つまり、ベートーヴェンの『ピアノ協奏曲5番<皇帝>』は、初演当時から作曲者以外の奏者によって演奏されてきたのです。その名曲を天野様の演奏で聴くことができる日を、心から楽しみにしています。

そして最後にもう一度、申し上げましょう。天野様、この世にかなえられない夢はないのです。

「オーケストラ生前葬」お見積りまとめ

基本プラン
オーケストラ派遣サービスを利用して、クラシック演奏会を開催

オーケストラ派遣料+会場費
約450万円

オプションA
社歌をオーケストラ用に編曲して
アンコールで演奏

西田直嗣先生への編曲依頼費
30万円

オプションB
音楽家向けドレス専門店で
ゴージャス&個性的なドレスをお仕立て

3着のお仕立て予算
裾直し料

16万3200円

今回の妄想♡生前葬プランのお見積り総額は……
基本プラン + オプションA + オプションBで
=合計496万3200円!

依頼人からのコメント
依頼人・天野一美
依頼人・天野一美

結論から言わせていただくと、完璧なプランだと思うわ。私は当初、ピアノのソロリサイタルのような小規模な生前葬をイメージしていたけれど、オーケストラと競演するなんてことも、現実的にできるのね。脱帽です。ちょっと悔しいけれど、余生さんの提案、前向きに検討させていただきます。

専門家からのコメント
畑山 花朱美<br>(株式会社ハウスボートクラブ)
畑山 花朱美
(株式会社ハウスボートクラブ)

生前葬ではご参加者様より「会費」をいただくケースも多いため、ご人数が集まれば会費で費用の大部分を賄うことも可能です。かのベートーベンの葬儀の際は、なんと2万人もの人が集まる大騒ぎだったそうですよ(!)。

余生充実郎のひとりごと──「お見積り」を終えて

バーテンダーが席に近づいてきて「いつものでよろしいですね?」と注文をとりにきた。そういう関係性を築くほどに、余生はよくその店に通っていた。

そのバーテンダーは話し上手な男だったが、口は固かった。客の秘密を簡単にもらすことはない。逆に寡黙なバーテンダーというものは何を考えているのかわからず、不用意な場所で不用意な発言をしてしまうものだと余生は考えていた。

彼は目の前のギムレットが注がれたグラスの水滴を眺めながら、長い自省に沈んでいった。

「余生よ。お前、最近、声を出して笑ったことがあるか? ないだろう。1カ月、半年、いや1年の記憶をさかのぼってもな。最近のお前は仕事一筋で、自分の喜びのために金と時間を使っていない。今回のプレゼンでわかったろう? その気になりさえすれば、人は遠い昔にあきらめた夢をかなえることも可能なんだ。よく考えてみろ」

今日の酒は長くなるぞと思いながら、余生は次の一杯の注文をバーテンダーに託した。