2023年8月27日(日)、布施美佳子氏の生前葬がホテルイースト21東京で執りおこなわれました。50歳の誕生日を記念して開かれた本会のコンセプトは、「人生の披露宴としての生前葬」。当日は、布施氏の友人・知人、約120名が出席しました。
生前葬とは、以前は「プレ葬儀」としての意味合いの強いものでした。死を目前に控えた主催者が、家族や友人・知人に感謝やお別れを伝えるためのセレモニーとして開かれるケースが一般的でした。しかし現在、その価値は、より自由で豊かな形に進化しつつあります。これからの人生をより充実したものにするために、いったん一区切りする儀式として。または、これまでの自分の人生を振り返ってリセットし、新たな自分として生まれ変わるきっかけとしておこなわれるケースも増えてきているのです。
布施氏の生前葬イベントのキーワードは「自己肯定感」。旧来的なイメージとは一線を画し、死ではなく、むしろ生に向けたポジティブなセレモニーとして、生前葬を再定義する内容でした。生前葬の新たな魅力と価値について、当日のイベントレポートを通してお伝えします。
布施美佳子氏/プロフィール
棺桶・骨壷デザイナー。「可愛い葬儀」を提案するブランド・GRAVE TOKYOの代表。1973年秋田県生まれ、文化服装学院アパレルデザイン科卒業。アパレルメーカーを経て、玩具メーカーにて商品企画開発に従事。キャラクターとアパレルブランドの融合や、女性用ブリーフなど新規事業を担当。可愛い棺の中で、自ら書いた弔辞が読み上げられるのを聞く「入棺体験ワークショップ」が話題となった(ラフォーレ原宿や横浜ビブレなどで定期開催中)。「阿佐ヶ谷アパートメント(NHK総合)」などのテレビ番組への出演歴あり。
プログラム:死から再生へ
イベント名にもあるように、今回の生前葬は「披露宴」に近い形式をとっていました(実際に、開催費用も結婚披露宴の予算感に匹敵する額だったとか)。プログラム概要は以下のとおりです。
(イベントプログラム概要)
1.布施氏の人生ドキュメンタリー放映
2.歓談・食事タイム
3.メインイベント①:プロ納棺師による納棺の儀
4.メインイベント②:参加者による弔辞の読み上げ
5.布施氏の復活
納棺式と弔辞の読み上げという、死を象徴する儀式が終わったのちに、布施氏が復活を遂げるまでが一連の流れです。「自らの人生を披露」するというコンセプトを一貫する形で、プログラムが組まれていました。
会場入り口には、入棺体験や遺影撮影コーナーなどの参加型コンテンツほか、新作の棺や死化粧メイク品、ラストランジェリーなどの展示も。「可愛い葬儀」を掲げる布施氏の世界観を肌で体感できるよう、さまざまな仕掛けが用意されていました。
当日のイベントレポート
(1)布施氏の人生ドキュメンタリー放映
会の冒頭では、布施氏が主演・演出を手掛けたドキュメンタリー映像が放映され、布施氏の人生の軌跡が「披露」されました。語られた内容は、幼少期の考えや希死念慮との闘い、デザイナーを志すきっかけとなったファッションブランド・ヒステリックグラマーへの憧れ、玩具メーカーでのデザイン開発の思い出、友人や家族への掛け替えのない思いなど。『情熱大陸』風のアレンジに、会場からは何度も笑いの声が湧きました。
(2)歓談・食事タイム:人生の最期に食べたいもの
来場者に供されたメニューは、カレーやラーメン、寿司、ローストビーフなど、ボリューミーなものばかり。これは株式会社 パズルリングが実施した「人生さいごに食べたいもの」アンケートで上位を獲得したメニューを参考にしたとのこと。参加者からは、「ホテルの式場で見たことない景色」「既にお腹がはち切れそうなのに、デザートがラーメン」など、驚きの声も。
(3)プロ納棺師による納棺の儀
歓談タイムの後は、いよいよメインイベント。布施氏が、仏衣をまとった状態で舞台の上に敷かれた布団に横たわります。続いて、プロ納棺師・大森明子氏と丸山裕生氏が登場。厳かな雰囲気の中、「納棺の儀」がおこなわれました。
100名を越える参加者は、固唾をのんで儀式の様子を見守り続け、会場は水を打ったような静けさに包まれました。目を閉じたまま微動だにせず沈黙を守る布施氏の様子は、まるで本当に永遠の眠りについてしまったかのよう。彼女が一度、擬似的な死を迎えたことを象徴するシーンでした。
(4)参加者による「お別れの言葉」
「納棺の儀」の後は、イベント参加者たちが布施氏への思いを弔辞に綴り、読み上げる「お別れの言葉」の時間が設けられました。語られたのは、布施氏との出会いや思い出、感謝の思い、布施氏のデザインした作品への愛着、布施氏に過去かけてもらって嬉しかった言葉など。
参加者の中には、本物の死者のように眠り続ける布施氏の姿に心を揺さぶられ、とめどなく涙を流す方も。布施氏への愛情にあふれた暖かな時間は、約2時間ほど続きました。「自己肯定感の向上」をテーマとするイベントに相応しい景色が、そこにはありました。
(5)死からの復活
家族・関係者による最後の「お別れの言葉」が読み上げられた後、イベントはついにクライマックスを迎えます。多くの参加者たちに見守られながら、布施氏が棺の中でゆっくりと目を開き、復活を遂げたのです。
二度目の生を受け、蘇りを遂げた布施氏の顔には、爽やかな笑みが浮かんでいました。その様子は、概念的な死から生に至る一連のプロセスを経て、これまでのネガティブな感情や苦しみ、苦難の記憶がリフレッシュされたかのようでした。
生まれ変わった布施氏は、棺の中に入ったまま閉幕のスピーチをおこない、参加者や関係への感謝の思いと、「生きている間にきちんと褒められること」の重要性、生前葬の意義について語りました。
復活の瞬間と、「蘇り後」の布施氏によるスピーチは、下記の動画でご覧になれます。
生前葬を「人生でもっとも褒められる日に」
若くして亡くなる友人・知人が周囲に多く、自身も幼少期より希死念慮を抱いていたという布施氏は「人生そのものを肯定し、生きづらい世の中を生きやすくしたい」という思いで、デザイン制作を続けてきました。
布施氏は、「弔辞を生きている間に聞けないのは、もったいないこと」だと述べます。そう考えたきっかけは、2022年に小規模でおこなった生前葬リハーサル。そのときに、「参列者たちから口々に耳元で語られるお別れの言葉が、どれもこれも温かく、本人を大切に思っている珠玉の言葉だった」ことに驚いたそうです。
布施氏はその経験を経て、生前葬に「葬儀のプレイベント」以上の意義を見出しました。そして、生前葬を「人生の披露宴」「人生で一番褒められる日」として再定義することを考えました。今回開かれた生前葬イベントは、そのビジョンの実現のために構想されたものです。
人は人生で必ず3回褒められると言われています。「生まれたとき、結婚したとき、そして死んだとき」。しかし、生まれたときや結婚したときの褒められたことは自分では理解できません。日本では学校や職場での褒められることが少ないのが現状です。そこで、人生で一番褒められる日を自分で創るアイデアが「人生の披露宴」として生前葬に結実しました。生前葬は感情を引き出す儀式を通じて、参加者と主催者に新たな感情をもたらし、笑いと感動に溢れた場を提供します。参加者の数は問いません。5人でも10人でも、そこには幸せで感動的な瞬間が待っています。このイベントを通じて、自分がいつまで生きるか、健康でいられるか、何を成し遂げたいか、誰に褒められたいかといった問いかけを通じて、新たな考え方を見つける契機となるでしょう。(2023年8月28日(月)/布施美佳子氏のfacebookより)
布施氏はこれまでも、入棺体験ワークショップを通し、「擬似的な死によって自身を客観的に見つめ、生を捉え直す」ことの重要性を説いてきました。ワークショップでは、自分の弔辞を読んでほしい人になりきって自分への弔辞を書き、棺の中でそれが読み上げられる音に耳を澄ませます。参加者はそれらの一連のプロセスの中で、「他者の視点」を借りて自分という人間や自分が置かれている状況を冷静に客観視・言語化し、そして自分への思いやり・自己肯定感を取り戻していくのです。
その意味で、今回おこなわれた「人生の披露宴という名の生前葬」は、入棺体験ワークショップをスケールアップさせたものと言えます。そのリフレッシュ効果は、主催者・布施氏だけではなく参加者にも及び、「私も生前葬をやって、こんな風にたくさん褒められてみたい」という感想が各所から飛び出しました。
これからの時代の「生前葬」
時代の変化と共に、意味合いの変化してきた生前葬。まだセレモニーとしての知名度は低く、芸能人や経営者、業界人ではない一般人がおこなうには、ハードルの高さが否めません。
しかし生前葬には、死後におこなう通夜や告別式、お別れ会とは異なり、宗派/宗旨による縛りや厳しいルール、礼儀作法などがありません。そして何より「主役が存命」である点に、他にはない魅力があります。
今回、布施氏が開催したようなイベントによって、その価値は広く知られていくことになるでしょう。「たくさんの褒め言葉をもらって自己肯定感を向上し、これからの生をより充実させるための新たなセレモニー」として、生前葬が世に普及する日は近いかもしれません。
ギャラリー
生前葬イベントを経て多くの気づきを得た布施氏は、新たな試みとして「スナックみけら Ver.ふたりきり」のサービス提供を開始しました。これは1時間マンツーマンで、人生や終活、子育てのお悩みや、商品アイデアの出し方、ダイエットの相談に応えるものだそうです。オリジナル生前葬のプロデュースも請け負っているとのこと。
布施氏に相談したい話のある方は、下記より問い合わせてみてはいかがでしょうか。
(布施美佳子氏のコンタクト先)
Facebook:https://www.facebook.com/mikako.f.mikurino
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Instagram:https://www.instagram.com/mikera1973/
※この記事は、窓口de終活HPからの転載です。